西大津耳鼻咽喉科

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当院における好酸球性副鼻腔炎治療の現状

好酸球性副鼻腔炎は平成27年7月1日より、難病法により指定難病に指定された。
それを機に当院では好酸球性副鼻腔炎患者をリストアップし、当院における最重点疾患と位置づけて診断・治療を行ってきた。
そこでこの度、平成29年2月21日現在の当院における好酸球性副鼻腔炎治療の現状につき報告する。

平成29年1月11日現在

概要

当院における好酸球性副鼻腔炎患者の現況(平成29年1月11日現在)

平成29年1月11日までに、当院において取り扱った好酸球性副鼻腔炎患者総数は58症例で、うち2例は転居に伴い他院紹介とした。

年齢分布
総数58
平均52.8才(最低年齢25歳、最高齢81歳)
男女比 男性28症例 女性30症例

40歳代にピークが見られ、男女差は認めなかった。
高齢になると自然軽快傾向が見られるという説もあるが、70歳以上でも依然として活発な症状を呈する症例が少なからず見られた。

主訴

受診のきっかけとなった主訴について調べたところ鼻症状86.2%、耳症状8.6%、咳嗽5.2%であった。詳細は以下の如くであった。

主訴
鼻症状 50例(86.2%) 鼻閉 33例(57%)
  嗅覚 16例(27.5%)
  鼻漏 1例(1.7%)
耳症状 5例(8.6%) 耳痛 3例(5.2%)
  耳漏 1例(1.7%)
  難聴 1例(1.7%)
咳嗽 3例(5.2%)  
(総数58)

鼻症状のみならず、耳症状や咳嗽をきっかけに来院するケースも少なからずあり、注意を要する。また、嗅覚障害を主訴とする症例の中には鼻腔所見が全く正常に見えて、CTを撮って初めて好酸球性副鼻腔炎を疑うに至った症例もあった。嗅覚障害の患者に於いては鑑別疾患に好酸球性副鼻腔炎を常に念頭に置いておくべきである。

発症年齢

発症年齢の平均は47.2歳で、最低年齢24歳 最高齢74歳であった。
ピークは30~50代に見られたが、70歳代になってから発症したケースも5例(8.6%)見られた。

発症年齢
 

合併症

合併症の頻度は以下の如くであった。(重複あり)

気管支喘息 42例(72%)
 アスピリン不耐症 10例(17%)
 NSAIDsアレルギー 8例(14%)
耳好酸球性中耳炎症状 12例(21%)
好酸球性肺炎 1例(1.7%)
(総数55)

なお、NSAIDsアレルギー8例はいずれもアスピリン不耐症と合併しており、NSAIDsアレルギー単独の症例は見られなかった。

好酸球性副鼻腔炎と気管支喘息の発症時期に関する検討

気管支喘息合併例42症例において、気管支喘息がどの時点で発症したかについて検討した。
下図は好酸球性副鼻腔炎発症の何年前から気管支喘息が発症したかをグラフにしたものである。気管支喘息発症後3~5年経過して好酸球性副鼻腔炎を発症しているケースがめだつが、同時発症も8例見られた。一方好酸球性副鼻腔炎を先に発症し、その後に気管支喘息を合併した症例も5例見られた。

 

好酸球性副鼻腔炎の診断と検査

好酸球性副鼻腔炎を疑う症例に関して初診時に行う問診及び検査について述べる。

問診内容

  • 症状発症の時期
  • 鼻副鼻腔疾患の治療歴
  • 喘息の有無
  • アスピリン不耐症、NSAIDsアレルギーの有無
  • 中耳炎の既往
  • 糖尿病、その他基礎疾患の有無

発症時期に関しては患者の記憶があいまいなケースも多く、時間をかけて丹念に探る必要がある。特にアレルギー性鼻炎がベースにある場合は断定が困難である。
喘息に関しては基本的に成人発症の喘息が対象で小児喘息の既往はあまり参考にならない。
中耳炎も同様に、小児期の急性中耳炎の既往は省いても良いと思われる。

検査

  • 鼻咽腔ファイバースコープ
  • 副鼻腔CT
  • 血液検査 : RIST,RAST,CBC、生化
  • 鼻粘膜生検

上記の諸検査は必ず初診時に行わなければならない。
ひとたびステロイド治療を始めれば未治療時のデータは再び得にくく、ほぼチャンスはない。未治療時のデータが非常に重要である旨を患者に十分説明し、相応のコストがかかることも説明したうえで施行している。
殊に鼻粘膜生検は初診時に行うべきである。

治療

好酸球性副鼻腔炎の治療はステロイド内服を中心とした保存的療法と手術の組み合わせで行っている。

保存的療法

使用薬剤について
内服ステロイド剤

好酸球性副鼻腔炎に直接的に効果のある薬剤は唯一ステロイドの内服のみである。
ステロイドは急性増悪気には長期作用型を使用し、寛解期には中期作用型を使用する。急激な血中濃度の変化を起こさないようテーパリングするようにしている。使用量は重症度や症例毎の反応性をみて決定する。
長期作用型としてはベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩配合剤(セレスタミン)あるいはベタメタゾン(リンデロン)を使用している。
中期作用型ではプレドニゾロン(プレドニン)を使用している。

カルボシステイン

好酸球性副鼻腔炎の鼻汁はにかわ様と表現されるように、非常に粘凋性が高い。
粘凋性が高い鼻汁は鼻副鼻腔内に停留しやすく、その結果鼻粘膜上に細菌や異物が留まり易くなるため、感染や炎症を惹起する原因となる。
カルボシステインにより、鼻汁の粘凋度下げ、排泄しやすくする。

抗アレルギー剤内服及び点鼻

抗アレルギー剤自体は好酸球性副鼻腔炎に対して無効と考えるが、アレルギー性鼻炎合併症例には鼻粘膜のアレルギー性炎症を抑えることにより寛解期の延長を期待できると考え併用している。

抗生物質内服

抗生物質も抗アレルギー剤同様、好酸球性副鼻腔炎に対しては無効と考えるが、感染症発症時は当然ながら併用する。基本的にはマクロライド系を用いるが、無効時はノイキノロン系も使用する。

ステロイド剤の使用例
初診時、急性増悪時

セレスタミン2錠分2後(1週間乃至2週間)
或はリンデロン0.5mg/day

セレスタミン1錠分1夕食後(1週間乃至2週間)
或はリンデロン0.25mg/day

*上記で向うの場合は最大
セレスタミン6錠分3後(或はリンデロン1.5mg/day)まで増量
その後テーパリングを行う

寛解期維持療法

PSL1錠分1朝食後隔日(維持)

PSL1錠分1朝食後3日に1度(隔日投与で長期間安定を見た場合)

鼻洗浄

生理食塩水による鼻洗浄も粘膜の感染や炎症を抑制するために有効な手段である。
当院では院内に鼻洗浄機を設置し、鼻処置後に必ず行っている。洗浄により、鼻腔内の細菌濃度を下げ、粘凋鼻漏の停滞を抑制する。
家庭においても、家庭用鼻洗浄機を用いて毎日励行するように指導している。

手術

ESS

ESSは基本的には積極的に行うべきと考える。
第一義的な目的は、病巣の除去ではなく、副鼻腔粘膜の面積の縮小と中鼻甲介及び上鼻甲介の形成にあると考えている。極力篩骨洞粘膜の面積を縮小するために徹底して篩骨蜂巣を除去し篩骨洞の一洞化をはかる。それにより寛解期の延長が期待できる。

鼻腔環境改善手術

アレルギー性鼻炎、慢性鼻炎、鼻中隔湾曲症などがある場合、ESSを行うにあたっての障害となるだけにとどまらず、術後の好酸球性副鼻腔炎管理にとって、これらの合併症があるということは非常に不利である。
そのため当院では、アレルギー性鼻炎、慢性鼻炎、鼻中隔湾曲症など合併症がある症例は、ESSに先んじてこれらの合併症に対する手術を先行し施行するようにしている。
この合併症に対する手術を仮に「鼻腔環境改善手術」としておく。
 粘膜下下鼻甲介骨切除術、鼻中隔矯正術、経鼻的翼突管神経切除術を症例毎必要な組み合わせで行っている。
 鼻腔環境改善手術を行った後、3~6か月後にESSを施行する。

手術実績
手術実績
オペなし 12例 21.40%
鼻腔環境改善手術のみ 10例 17.90%
ESSのみ 8例 14.30%
鼻腔環境改善手術+ESS 26例 46.40%
(総数86)

*SDのみ10例中にはESS予定中の4例も含める
*母数は56例、他院転院の2名は除いた

症例毎のESS施行回数

好酸球性副鼻腔炎ではESSを複数回施行しなければケースがしばしばみられる。
保存的療法でのコントロールが困難になった場合は再手術を積極的に行い、低用量のステロイドでコントロール可能になるように環境を整える必要がある。
当院でフォロー中の好酸球性副鼻腔炎症例のESS施行回数を数に示す。

症例毎のESS施行回数
0回 19 34%
1回 23 34%
2回 11 19.60%
3回 3 5.40%
(総数56)

*当院受診以前に他施設で施行した回数も含む
*当院より他施設に再手術を依頼した症例も含む

症例提示

当院での治療経験の中から、いくつかの特徴的な症例について提示する。

症例1 ステロイド増量でコントロールしえた症例

50歳女性

主訴  鼻閉
合併症 喘息、アスピリン不耐症、NSAIDアレルギー

経過

2008年10月7日当院初診(42歳時)
  1年前から気管支喘息を発症し、鼻閉・鼻漏が進行したとのことで当院初診
2008年10月22日
  左ESS,左経鼻的翼突管神経切除術、左粘膜下下鼻甲介骨切除術
2008年11月19日
  右ESS,右経鼻的翼突管神経切除術、右粘膜下下鼻甲介骨切除術
  鼻中隔矯正術

以降保存的に経過観察

寛解増悪を繰り返すも、下記処方で通院治療を継続
・通常時
カルボシステイン、塩化リゾチーム、モンテルカスト、ベポタスチンベシル酸塩
アラミスト点鼻
・増悪時
セレスタミン、クラリスロマイシンを追加

その後患者の事情により、2年間通院が途絶

2016年6月13日 再診
以下にCT,内視鏡所を示す。篩骨洞に高度御粘膜浮腫を認め粘凋な鼻汁の充満を認めた。
鼻茸中好酸球数 494cells/HPF  血中好酸球 8.1%

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直ちにステロイド内服治療を開始

セレスタミン2錠/日×14日
セレスタミン1錠/日×14日

2016年7月11日 再診時寛解を確認(↓写)

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その後 PSL5mg/日隔日投与で維持

2016年9月1日 急性増悪を再度認めた(↓写)

症状・イメージ 症状・イメージ

そこで前回同様
セレスタミン2錠/日×14日
セレスタミン1錠/日×14日
施行も改善傾向見られず、上記を都合2クールくりかえすも今回は寛解に至らず

2016年11月1日
従来の3倍量のセレスタミンで対応を試みる

セレスタミン6錠/日×7日 → セレスタミン4錠/日×7日

2016年11月15日 上記内服終了後、寛解確認(↓写)

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*その後の経過
PSL5mg/日隔日投与で維持を試みるも、寛解期は1か月も維持できず再びセレスタミンの増量を行わなければならず、現在は再手術について調整中。

症例2 ステロイド内服でコントロール良好な症例

45歳男性
主訴 鼻閉
既往歴 双極性感情障害
合併症 喘息(-) アスピリン不耐症(-)、NSAIDアレルギー(-)

経過

2006年6月23日 (35歳時)

6年前から鼻呼吸できない、匂いがしないとのことで当院初診
両側とも前鼻鏡を使わずとも鼻茸が鼻前庭に見えるような状態で(↓写)
CTでも全副鼻腔及び鼻腔に含気を認めないような状態であった。

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2006年8月23日 両側鼻茸切除術、鼻中隔矯正術
2008年8月5日  左ESS,左経鼻的翼突管神経切除術、左粘膜下下鼻甲介骨切除術
2008年9月2日  右ESS,右経鼻的翼突管神経切除術、右粘膜下下鼻甲介骨切除術

以降保存的に経過観察
増悪時 セレスタミン2錠/日→セレスタミン)1錠/日
寛解期維持 PSL(5mg)/2day
上記でコントロール良好であった(寛解期↓写)。

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2015年11月6日再診  患者の都合により、2年間ブランクののち来院
両側副鼻腔及び鼻腔にポリープ充満(↓写)
鼻茸中好酸球数 2000↑cells/HPF  血中好酸球 10.6%

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直ちに
セレスタミン2錠/日 ×14day → セレスタミン1錠/日 ×14day 投与したところ寛解をみた(↓写)。

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寛解期は PSL(5mg)/2day 良好な状態で維持

*この症例は、高度病変を有しつつも、ステロイドの反応が極めて良好なケースである。
 ただ、双極性感情障害があるため、予定通りの受診が困難な時期が生じるため、急性増悪を繰り返している。

症例3  鼻腔環境改善手術のみで良好なコンディションを維持できている症例

70歳男性
主訴 鼻閉
合併症 喘息(-)、アスピリン不耐症(-)、NSAIDアレルギー(-)

経過

2016年2月15日 1年前ほど前から鼻閉を繰り返すとのことで当院初診
  鼻茸中好酸球数 284cells/HPF  血中好酸球 7.0%

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ベタメタゾン10mg/day 7日  →  ベタメタゾン5mg/day 28日  →  PSL5mg/2day で維持
ある程度の鼻茸縮小、中鼻甲介腫脹の軽減を見たところで鼻腔環境改善手術を施行

2016.5.18  両側経鼻的翼突管神経切除術、両側粘膜下下鼻甲介骨切除術、鼻中隔矯正術施行

術後はPSL5mg/2day 寛解期で維持
同年9月にESSを予定していたところ前立腺癌が見つかり、ESSは一旦中止として
前立腺癌治療後もPSL5mg/2dayで維持。

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2017年1月27日 内視鏡所見及びCT画像(↑写)
急性増悪を見ることなく、低用量のステロイドのみで鼻腔ポリープの縮小、篩骨洞陰影の軽減が見られる。
嗅覚も良好な状態が保たれている。

症例4 緩徐進行症例

68歳女性
主訴   嗅覚減退
合併症  喘息(55歳時発症)、アスピリン不耐症(-)、NSAIDアレルギー(-)

経過

2011年9月10日当院初診(63歳時)
  匂いがしなくなったということで受診。これまでも当院には鼻炎症状で数回受診歴あり。
  抗ヒスタミン剤で寛解していた。

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写真:両側とも軽度中鼻甲介の主張を認め上鼻道が狭小化しているがポリープや著しい粘膜の浮腫は認めない

タリオン内服およびエリザス外用カプセルで軽快。
その後、数度同症状繰り返すも同処方で軽快していた。

2012.10.23
同様の嗅覚減退につき再診。上記処方で経過を見るも改善が見られないため
リンデロン点鼻液を処方
数日で軽快を見た。
その後嗅覚減退繰り返すが、リンデロン点鼻のみで対応。都度軽快

その後、症状が出なかったためしばらくブランクあり

2016.2.23
嗅覚減退で再診

鼻腔所見は2011当時と変化は見られなかった。
CTを撮ったところ、篩骨洞内に軽度の陰影を認めた。

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そこで好酸球性副鼻腔炎を疑い セレスタミン 処方で軽快
その後も嗅覚減退繰り返すが同処方有効。

2016.10.22
10月12日に左耳痛自覚し、近医耳鼻咽喉科受診、急性中耳炎の診断のもと
セフジトレンピボキシル
ロキソプロフェンナトリウム
フルチカゾンフランカルボン酸エステル点鼻液
処方受けるも無効とのことで当院再診
左中耳に浸出液貯留を認めた。

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CTで再検査したところ(↓写)篩骨洞陰影の著しい増大が見られ、血中好酸球は 18.1%に達していた。

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そこでセレスタミン2錠/日 ×14day → セレスタミン1錠/日 ×14day 投与したところ寛解をみたため
その後PSL 1錠/2日で維持
さらに現在(2019年2月)はPSL1錠/3日で嗅覚障害および中耳炎の再発は見ず、良好な状態を保っている。

考察

好酸球性副鼻腔炎の症状発現部位に関して

JESREC スコアの項目に「CTにて篩骨洞優位の陰影あり」とあるように、病変はほぼ篩骨洞粘膜および中鼻甲介、上鼻甲介に限局しているといっても過言ではない。
CT上汎副鼻腔炎の所見を呈する症例においても篩骨洞以外の病変は中鼻甲介の腫脹により中鼻道の閉塞を来たした結果、膿性鼻汁が充満したに過ぎないケースがほとんどである。
術中所見では篩骨洞粘膜および上・中鼻甲介粘膜とその他の副鼻腔粘膜との間には、あたかも明瞭な境界線の有るが如くの印象を受ける。さらに同じ篩骨洞内においても、前部篩骨洞のほうが後部篩骨洞よりも強い浮腫を発現する傾向にある。
したがって、好酸球性副鼻腔炎のESSにおいてはおおよそ上顎洞、前頭洞、蝶形骨洞内の処理は必要ないに等しい。一方、前部篩骨洞、特に鼻前頭管周辺の処理及び上・中鼻甲介の処理は厳密に行わなければならないと考える。

症状・イメージ 症状・イメージ 症状・イメージ

(↑写)ESS術後半年のCT画像、病状のコントロール良好な症例であるが、CT上では前部篩骨洞にしっかりとした病変を認める。

増悪因子と考えられるもの

感染症

これは従来から広く認識されている最も重要な因子である。感冒罹患時、また細菌性副鼻腔炎などにより惹起されることはほぼ間違いはない。そのため、感染症を予防することが好酸球性副鼻腔炎再燃を抑制するための糸口になる。前述のように、日ごろからのケアーとして受診時および家庭での日常的な鼻洗浄の励行やカルボシステインの常用などは有効な予防手段であると考える。また、感染が疑われたときは抗生物質の併用を積極的に行う。

アレルギー発現に伴う増悪

花粉症の発症や通年性アレルギー性鼻円の増悪に伴い症状の増悪を認める事がある。対応としては花粉症合併症例なら初期療法から花粉飛散期を通して抗ヒスタミン薬などの併用を行い、

季節的な要因

多くの症例を常時診察していると、春秋の季節の変わり目に増悪する傾向がうかがえる。これは気管支喘息の増悪や、またはRIST,RASTすべて陰性にもかかわらず、春秋にアレルギー性鼻炎類似症状を呈する小児の鼻炎と類似する。この要因に関しては、予防対策は困難で、専ら症状が発現した合時点での対照用法的対応となる。

自律的な増悪サイクル

感染症発症や季節的要因、またはアレルギー等の要因にかかわらず、ある一定のサイクルで寛解増悪を繰り返す症例が少なからず見受けられる。それらの中にはステロイドの増量期間に寛解し、低用量での維持期間に徐々に増悪を来たしている症例も含まれるかもしれない。
感染症やアレルギー性鼻炎の発現のみが好酸球性副鼻腔炎の増悪因子ではないもう一つの根拠として、鼻・副鼻腔に著しい感染症症状が存在しているにもかかわらず、篩骨洞粘膜や上・中鼻甲介粘膜に浮腫性変化を認めず、感染症終息後、速やかに寛解状態に戻るケースがあるという点が挙げられる。同様に花粉症期に活発なアレルギー性鼻炎症状が鼻粘膜上で認められているにもかかわらず、篩骨洞粘膜や上・中鼻甲介粘膜に好酸球性副鼻腔炎に特有の浮腫性変化が認められないケースも見られる事がある。これらの症例によって示唆されることは、好酸球性副鼻腔炎の症状増悪が感染症やアレルギー性鼻炎症状、あるいは気候の変化などの外的要因のみによって惹起されるだけではなく、何かしらの内的要因の作用によっても惹起されている可能性が否定できないということである。

ピリン系薬剤・NSAIDs

アスピリン不耐症およびNSAIDアレルギーを有する患者が当該薬剤を服用した時には劇的な増悪を認める。過去に当該薬剤により喘息発作を起こした既往のある患者は使用を控えるように心掛けているためかえって危険度は低いが、過去に経験のない患者や、喘息様症状の発現が比較的軽度のアスピリン不耐症およびNSAIDアレルギーを有する患者の場合、性急かつ不可解な急性増悪を認めたときに詳細に問診を取った結果、当該薬剤の服用により惹起されたものと判明したケースもあった。

疲労・ストレス

これは一つの内的要因として挙げられるかもしれないが、悪性腫瘍をはじめ、あらゆる疾病に於いてトリガーとなり得るものであり、参考までに挙げるにとどめる。

手術の必要性と行うべき術式についての検討

先に「手術」の項目でも触れたが、ここで改めて手術の必要性と行うべき術式についての検討を行う。

「好酸球性副鼻腔炎の診断基準」班 による好酸球性副鼻腔炎の概要説明においても「軽症から重症を含めて、内視鏡下鼻内副鼻腔手術を行った場合、術後6年間で 50%の症例が再発する。特にアスピリン喘息に伴う好酸球性副鼻腔炎では術後4年以内に、全例再発する」とある。

手術を施行したところで大多数の症例で再発が避けられないのなら果して手術は必要なのか、と問われればどう答えるべきであろうか?勿論、手術はするべきであると答える。

例えば、5年生存率が極めて0%に近い悪性腫瘍があるとしてその手術をするべきかどうかということになれば、手術侵襲の度合いにもよるであろうが、かなり意見の分かれるところであろう。しかしながら、好酸球性副鼻腔炎の場合は根治的手術と考えればそれはむなしい結果に終わるかもしれないが、必ずしも根治を目指す手術である必要はない。再発を繰り返し、根治せしめることが極めて困難な疾患であるが、生命予後を脅かす疾患ではない。ならば、この疾患の治療の意義はどこにあるかと考えれば、それは如何に寛解期を延長し増悪の機会を減らすか、というところにあると言い切れると思う。すなわち、QOLの向上こそが、好酸球性副鼻腔炎における治療の主要命題なのである。

そのような考えに基づけば、根治はならなくとも手術は治療戦略上きわめて有用な選択肢の一つと成り得るのである。

好酸球性副鼻腔炎自体に行うべき手術は当然のことながらESSである。

ただ、手術の目的は「病巣の除去」ということではなく、「症状を発現する粘膜表面積の縮小」という考えに基づいて施行している。つまり篩骨洞の一洞化である。それと上・中鼻甲介の部分的除去を合わせて行う。篩骨洞粘膜及び上・中鼻甲介の面積を縮小することによって寛解期の期間延長と急性増悪による症状発現を遅延せしめることを期待している。

手術直前にステロイド内服によって粘膜の浮腫を抑えることが重要である。

また、鼻腔形態の改善とアレルギー性鼻炎による影響の除去も、重要と考え、これらの合併のある症例に対しては必要に応じて粘膜下下鼻甲介骨切除術、鼻中隔矯正術、経鼻的翼突管神経切除術を適宜組み合わせ、鼻腔環境改善手術を積極的に行う。これには①QOLの向上②術後管理そして将来にわたっての鼻処置および観察を容易ならしめる③手術をより施行し易くする、といった目的に対して多大に寄与する。

基本的な治療の流れ

初診

ステロイド内服治療(極力病変を正常化させる)

鼻腔環境改善手術(必要のない症例では省略)
(経鼻的翼突管神経切除術、粘膜下下鼻甲介骨切除術、鼻中隔矯正術を、症例毎に必要性を見極めて選択し組み合わせて行う)

3か月から6か月ステロイド内服治療

ESS

ステロイド内服と鼻洗浄によるコントロール
*急性増悪時はステロイド増量
*安定した寛解期を確認できた場合、ステロイドを休薬
*カルボシステイン内服も有効

それぞれの症例の特性を見極め患者の意向も考慮した上で症例毎のオーダーメイドな治療を行う。
軽症例や、手術拒否症例では手術を省略して保存的療法のみで治療を進めるケースもある。また、鼻腔環境改善手術施行後、保存的療法で充分に良好な状態が保たれるようになった症例ではESSを行わずに経過を見ているケースもある。

ステロイドの選択

プレドニゾロンかベタメタゾンか検討する。

等価投与量

プレドニゾロン5mg=ベタメタゾン0.5~0.75mg
半減期
プレドニゾロン(12hr~36hr)
ベタメタゾン(36hr~54hr)
プレドニン(5mg)1錠に対してセレスタミン2錠~3錠に相当

臨床的な効果の印象

セレスタミン1錠中ベタメタゾンとして0.25mgであり、リンデロン0.5mg 1錠に対しセレスタミン2錠に相当する。
セレスタミンで眠気や倦怠が生じる患者にリンデロン+催眠作用のない第二世代抗ヒスタミン薬で代用投与するケースがあるが、セレスタミンを使用したほうが、効果が高く感じられる。これに関しては患者の主観的な感想も一致した。

吸入ステロイド薬(ICS)の逆吸入法に関して

オルソネーザル経路よりもレトロネーザル経路からの方が、副鼻腔や嗅裂へ空気流入しやすいという特性を生かし、ブデソニド(BIS)やべクロメタゾン(BDP)などの吸入ステロイド薬(ICS)を経口吸入したのちに経鼻的にはき出すというのが逆吸入方であり、好酸球性副鼻腔炎の治療に一定の効果が認められるという報告がある。
当院においても一時期導入してみたが、あまり効果が認められなかったため現在では積極的には行っていない。

モノクローナル抗体への期待

ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体であるオマリズマブ(ゾレア®)やヒト化抗IL-5モノクローナル抗体であるメポリズマブ(ヌーカラ®)は既存の治療法が無効な重症気管支喘息のみに適応のある薬剤であるが、作用機序から考えて好酸球性副鼻腔炎の治療にたいしても有効性が期待される。使用経験のある医師からの報告によると、効果はあるが、かならずしも劇的なものではないとのことであった。費用対効果で考えれば積極的にはなかなか使用できないというのが現実のようである。適応症が重症気管支喘息のみであることから好酸球性副鼻腔炎の治療に適応するには自費診療となり、年間で百数十万円から数百万円の負担がかかることになる。治療に組み込むのは今のところ現実的には厳しい。

ヒト化抗IL-13モノクローナル抗体であるLebrikizumabは現在治験中の新薬で、上記2剤同様重症気管支喘息に対する治療薬であるが、耳鼻咽喉科領域でも治験が行われており、好酸球性副鼻腔炎への適応が期待されている。しかし、薬価はやはりかなり高額になることが予想されており、適応にはかなり制限がかかるものと思われる。

病状説明上の注意点

好酸球性副鼻腔炎の治療における病状説明は丁寧に根気よく行う必要がある。
安易なスタンスで治療に取り掛かれば、患者は必ずある時期から自分自身が受けている治療に対して不信感を持つようになる。

医療機関を受診する患者は、例外なく疾病の根治を目指してやってくる。そして、通院しなくても良い健康な状態に戻ることを期待する。それは至極当然のことである。
しかし、その当然の心理がこの疾患においては重大な精神的足枷になる。治療に対して真摯な患者ほど、報われなさに絶望する。そして医療不信へと繋がってゆく。

治療を提供する側の医者は好酸球性副鼻腔炎の病態を客観的に把握している。殊に極めて難治性であるということに関して冷静に理解している。しかし、患者本人はそうではない。その認識の不一致が医療不信を招く原因なのである。
そこで、当院では診断がついた時点で下記の3項目に関して十分に説明をしている。そして、折を見て繰り返し同じことを何度も伝えるようにしている。

① 「治らない」病気であることを充分理解させる。
② 難病ではあるが悪性疾患ではない
③ QOL向上を治療の目標に

最重要な項目は①である。いきなり「この病気は治りません」ということを伝えることはかなり勇気のいることで躊躇しがちであるが、まず、いの一番にインパクトをもって伝えなければならないと考えている。この事実をあいまいにではなく衝撃的に認識しておらわないと後々長期間にわたる医者と患者の関係にぶれを生じることになる。

そのように宣告された患者は当然の如く、ショックを受ける。「治らない」ということは不治の病、手の施しようがない、死ぬ?いろいろな感情が交錯する。
まず、「治らない」ということと、「致死的」ということの混同、認識の境界が曖昧な状態で受け取られる。これも患者側からすれば当然である。

そこで次に重要なのが②の、難病ではあるが悪性疾患ではないということをしっかりと説明し「治らない」ということと、「致死的」ということを明確に区別できるようになってもらわなければならない。

しかしながら、そこまで理解出来たまでは良いが、治らないのならなぜ治療をしなければならないのかということになる。病気を治すという目標があってこそ、そのモチベーションにより患者のメンタルは維持でき治療に対して前向きになることが出来るのであるが、はなから「治らない病気」と言われた場合、患者は目標を失い当然治療に対するモチベーションを維持することはできなくなる。そこで「根治」に代わる目標設定が必要になる。それが③である。

手術、処置、投薬によって症状の安定をはかることによって、寛解期をより長く、そして急性増悪をできる限り来たさないようにコントロールすることが可能であることを十分説明し、QOLの向上、そして良好な状態の維持ということが治療の目標であるということをしっかりと認識させなければならない。

つまり「治らない」病気ではあるが「悪性疾患ではない」ということ、そして治療の目的は「根治」ではなく「QOLの向上」であるということを常に患者と医師が共通の認識として持ち続けなければならないと考えている。

平成29年3月10日

西大津耳鼻咽喉科 院長 増田信弘