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好酸球性副鼻腔炎

好酸球性副鼻腔炎をご存じですか?

皆さまは、好酸球性副鼻腔炎(こうさんきゅうせいふくびくうえん)を知っていますか?好酸球性副鼻腔炎とは!

  1. 頑固な鼻づまり
  2. 嗅覚(におい)を失う
  3. ネバネバの鼻水
  4. 急成長する鼻の多発性ポリープ病変
  5. 喘息と非常に良く合併する
  6. 風邪薬で悪化する
  7. 難治性の中耳炎を合併巣、将来難聴に至る
  8. 治らない病気

症状や特徴をおもいつくままに羅列するとこのようなところでしょうか。

好酸球性副鼻腔炎は副鼻腔炎いわゆる蓄膿症の中でもっとも難治性のやっかいな病気です。

治療が極めて難しく、根治の見込みがなく、長期間にわたって通院治療が必要となります。

一般にはその存在はあまり知られていない病気ですが、平成27年7月1日より、難病法により指定難病に指定されました。

特に鼻疾患に力を入れている当院では好酸球性副鼻腔炎に関する難病指定医療機関ならびに指定医師の指定をうけました。

今までも数多くの好酸球性副鼻腔炎を手がけており、また当疾患治療に必要な機材、ノウハウもそろえております。

好酸球性副鼻腔炎のケアーでお悩みの方は是非ご相談いただきたいと思います。

好酸球性副鼻腔炎の概要

1. 症状

最も多くの患者さんが訴えられる症状が頑固な鼻閉(はなずまり)です。

同時にかもうと思ってもなかなかかみ出せないような、粘りけの非常に強い鼻汁(粘調性鼻漏)も特徴です。 それに伴い、匂いが鈍くなって行きます。しまいには全く匂いがわからなくなり、味覚も失われてゆきます。

2. 疫学

患者数は厚生労働省の報告によると、約20,000人とのことですが、実際の臨床現場で見る限りに置いては、潜在的罹患者を含めるとその10倍は存在すると思われます。発症年齢はその殆どが30代半ばから50代半ばに集中しており20代以下での発症はまれです。性別による差はありません。

原因や、発症の機序は全く不明であります。

つまり、働き盛りの成人に突然何の因果も無くふりかかる不幸なのであります。

3. 臨床所見

鼻の中の所見(鼻腔所見)で最も特徴的なものが鼻茸とよばれるポリープです。沢山の房状のポリープでむくみが強い(浮腫という)のが特徴です。ポリープは徐々にボリュームを増してゆくため、はじめは何となく鼻の通りが悪いと云う程度ですが気がつくと鼻で満足に呼吸が出来なくなってゆきます。

「正常の鼻腔所見」と「好酸球性副鼻腔炎の鼻腔所見」

CTスキャンで副鼻腔内を検査するとその病態はさらに明らかになります。

鼻腔だけでは無く副鼻腔全体むくんだ粘膜が充満し、殆ど含気が認められません。

特に、篩骨洞と呼ばれる目と目の間にある副鼻腔を中心に陰影を認める事が多いです。

「正常な副鼻腔のCT所見」と「鼻腔・副鼻腔に陰影が占拠し、含気はほとんど失われている様子」

そして、好酸球性副鼻腔炎の確定診断に欠かせないものが、病理学的診断です。

これは鼻腔ポリープを採取し顕微鏡でポリープを構成している細胞を調べる事によって行います。ポリープ内にどれくらい好酸球(白血球の一種)が入り込んでいるかを調べます。

正常な鼻粘膜の顕微鏡写真
好酸球性副鼻腔炎の鼻粘膜

4. 合併症

最も多い合併症は気管支喘息です。8割以上の症例で合併が認められます。そしてその殆どが成人発症型の喘息です。

その中でもとりわけ注目されるものがアスピリン喘息と云われるタイプのもので、アスピリンなどNSAIDsといわれる非ステロイド系抗炎症薬により過剰反応を起こすタイプの喘息です。これは好酸球性副鼻腔炎が顕在化するよりも早い段階で先行して発症する事が多く見られます。

喘息とは逆に好酸球性副鼻腔炎発症後、重症化してから現れる合併症に中耳炎があります。

「正常鼓膜所見(右)」と「好酸球性中耳炎、急性増悪時(左)」

風邪(正確には急性上気道炎)に合併する感染性の急性中耳炎とは違い、非感染性で、抗生物質が無効でありステロイドによる治療のみが有効です。これは好酸球性中耳炎とよばれ、難治性で再発を繰り返すうちに高度の難聴を来します。

重症化した好酸球性中耳炎。高度の難聴を伴う(左)

好酸球性副鼻腔炎の治療

好酸球性副鼻腔炎の治療に置いてわかっている事は「内服ステロイド薬以外は何も効かない」ということです。

厚生労働省も治療方法は「未確立」としており、診断に対するガイドラインはあっても治療に関する有効なガイドラインはまだ確立されていないのが現状です。

しかしながら、学会や研究会では活発に議論が展開されており、臨床の現場ではコンセンサスの得られた有効性のある治療法がすでに行われています。

治療法をまとめると次のようになります。

Ⅰ薬物療法

急性増悪時

  • ステロイド内服の増量

寛解期(落ち着いている期間)

  • 少量のステロイド内服による維持療法
  • 補助薬剤による寛解期の延長
  • 抗アレルギー薬、鎮咳去痰剤などの併用
  • 吸入ステロイド薬などの併用

Ⅱ手術療法

内視鏡下副鼻腔手術

  • 副鼻腔の単洞化
  • 病的粘膜の除去
  • ポリープの減量

鼻腔形態の改善手術

  • 鼻腔容積の拡大
  • 鼻腔通気性の確保

Ⅲ鼻洗浄処置

  • 粘調性鼻汁の除去
  • 鼻腔の除菌
  • 鼻粘膜の消炎

以上の方法を複合的に組み合わせて治療を行ってゆきます。

いずれかの療法を単独で行ってもまず良い結果は得られません。

手術をしたら根治するかと云えばそのような事は無く、術後6年間で半数は再発を見ますし、アスピリン喘息を合併する症例では術後4年以内に全例再発すると言われています。

とは言うものの、薬物療法のみでは寛解期(落ち着いている期間)を作り出すのは至難の業で、手術と薬物療法の複合的治療により初めてQOL(生活の質)の向上がはかれます。

「増悪時の鼻腔所見」と「寛解時所見」

手術さえ受ければ治る、という考えははじめから持たないで下さい。

むしろ、手術を受けた時点がスタートであると認識して下さい。

患者さんへのアドバイス

最後になりましたがここで、好酸球性副鼻腔炎の患者さんへ、治療に臨むに際してのアドバイスをしたいと思います。

最も重要な事は

「この病気は治らない」と言う事を認識してほしいと云う事です。

はじめから絶望的な事を申し上げてショックを受けられた方には申し訳なく思いますが、この認識が重要なのです。ならば、何のために治療するのか?と疑問に思われるかもしれませんが、それは生活の質的向上(QOLの向上)の為であります。この病気は難治性疾患ではありますが、悪性疾患ではありません。

平たく言えば「治らない病気だが、命を取られる病気では無い」と言う事です。こう言い切ってしまえれば、少々余裕をもっていただけたのでは無いでしょうか。

命に別状が無ければ、完治させなくても良いのです。症状が出ないようにコントロール出来れば勝ちなのです。

「いつまで通っても治らない」と暗い表情で当院を受診される患者さんがしばしばおられます。そういう方は、何とか完治させてやろうとひたむきに治療にいそしんで来られて、それでも急性増悪に見舞われ、「こんなにがんばっているのに、また、、、」と絶望されているのです。

これは明らかに前医の説明不足に原因があります。

きちっと「治らない」事を説明していないから、患者さんを絶望させているのです。

この病気は、必ず良いときと悪いときの波が訪れる。でもきちっとコントロールしてゆけば怖い事はない。悪い時をなるべく短く、良い期間をなるべく長くなるようにコントロールしてゆきましょうと説明し、病気への取り組み方、考え方を変えてあげる事で、希望を持って治療に取り組んでいただけるようになります。

好酸球性副鼻腔炎治療は数日、数週間で終わるものでは無く何年にも及ぶケアーが必要です。

それは先にも申しましたとおり、治らない病気ではあるけれど快適な状態を維持することが充分可能だからです。ですから患者さんと医師は長い付き合いになります。患者さんが人間同士として信頼できる先生を見つけていただきたいと思います。

それに加えこの病気は、それぞれの患者さんに対してオーダーメイドの治療が出来なければなりません。

ですから、この病気の患者さんには、この病気をについて十分に知識を持ち、豊富な治療経験のある医療施設でケアーしていただきたいと思っております。

平成28年1月